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硬派のノンフィクション Part2

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 7月25日(土)09時06分56秒
  「この前、久しぶりに、生で「ちりとてちん」という落語を聴いたんだけど、作家モトさんは
知ってる?」とY田さんから話を振られた。「確か、関西では、「酢豆腐」とかって演目
だったかなあ」
「そうそう、見栄っ張りで、知ったかぶりで、嫌われもんの若旦那をとっちめようと、
若い衆が、腐った豆腐を「ちりとてちん」と称して無理やり食わせる話ね。「知らない」
なんて、口が裂けても言えないもんだから、顔をゆがめて、「やに眼に沁みるねぇ」な
んていいながら、食べる様子がおかしくって、おかしくって、、、、、、、、」
「ホント、落語の登場人物って、どこにでもいそうな人間を、実に巧みにカリカチュ
アライズして、描くから、何度聴いても、笑っちゃいますよねぇ」

以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
さて、前回に続き、佐野眞一の作品の紹介です。

「阿片王 満州の夜と霧」(新潮社)の主人公は、「里見甫」なる人物。
先の大戦中、陰謀と策謀が渦巻く満州を舞台に、阿片の密売を平然と仕切り、莫大な
利益を、軍、政治家などに貢いだ男。都内に隠棲している本人を苦労の末探し出し、
接触に成功しますが、戦中の密売の実態や、戦後も謎の女性に囲まれながら暮らす生
活の糧などは十分解明されない部分もあります。それでも、満州国の裏面史に阿片の
密売という切り口から切り込んだ力作です。

「東電OL殺人事件」(新潮文庫)も力作。
東電のばりばりのキャリアウーマンが、昼と夜の顔を使い分け、最後は、夜の「客」
に殺害される、というショッキングで、当時世間の耳目を集めた事件を扱っています。
家族や会社、関係者の厚い壁に阻まれて、薄紙を一枚一枚はがすような取材が続きま
す。
OLの深くて暗い心の内は、十分解明されたとは言えませんが、きめの細かい取材手
法など大いに興味をそそられます。また、犯人とされたネパール人のゴビンダ死刑囚
についても、丹念な取材により、冤罪の可能性が高いことが示唆されます。世間の注
目を集めただけに、警察の威信をかけた無理な捜査が招いたもの、との疑いを強く感
じます。

最後に「枢密院議長の日記」(講談社現代新書)を簡単に紹介します。

明治、大正、昭和の時代を生きて、法曹界から宮内省の要職、そして最後は枢密院議
長まで勤めた倉重勇三郎なる人物が、26年間にわたり膨大な日記を書き残していた。
大部の本にして、50冊にはなろうかという日記の大部分は、日々の些事で埋め尽く
されている。その中の「2年分」を「7年がかり」で解読したのが、本書であり、い
かに困難に満ちた作業であったかがうかがい知れる。
山のような砂の中から、砂金を探すようにして、当時の宮中を巡る事件、スキャンダ
ルなどが炙り出されます。明治から、大正にかけての貴重な歴史的証言、裏面史とい
えます。
<ミニコーナー>
久しぶりの持ち物自慢。ゲームで使うチップを入れておくラックです。西洋骨董の店
で手に入れました。
外国あたりでは、円筒形で、プラスチック製のものが主流で、このような四角の木製
はちょっと珍しい。チップは120〜130枚くらいが収まるサイズ。
これをどんとテーブルに置いて、ブラックジャックとかポーカーでも楽しみたいとこ
ろですが、今はとりあえず、机上のオブジェです。
 

硬派のノンフィクション Part1

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 7月18日(土)09時07分7秒
  今日はこれから、「本と街の案内所」での2回目のボランティアです。
先月やってみて分かったこと。訪れる方は意外と多い。ちょっと顔を出すだけの人も含めれば、
200〜300人を超えるかも。応対に暇がないくらいで、これは有難い。
デザイン関係の洋書、昭和30年頃の若者向け週刊誌のバックナンバーなどニッチな問合せが結
構多いことも分かった。自分なりの情報量をもっと増やしたい。
パソコンでの本の検索、これは得意の分野だが、神保町のDBは、ヒット率が低いのが残念。「生
憎、登録がないですね〜、どこかにはあると思うのですが」が常套句になってしまった。
ということで、張り切って行ってきます。
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
以前にも紹介したノンフィクション作家佐野眞一の作品(少し古い作品もありますが中身は決し
て古くありません)を2回にわたり紹介しようと思います。

まずは、「巨怪伝―正力松太郎と影武者たちの一世紀」(文春文庫 上・下)から。

警察官僚から読売新聞社に入社し、最後は読売グループのトップにまで登りつめた男の一代記で
す。テレビ事業の将来性を見抜き、いちはやく放送免許を取得すると共に、読売巨人軍を利用し
た視聴率獲得戦略、読売新聞の拡販など、今で言えばメディアミックスという事業戦略を見事に
開花させました。きわめてワンマン、独断専行、独善的なこの人物を支え、事業、経営として成
り立たせるためにいわば影武者として、暗躍、暗闘した人物の活躍ぶりも余すところなく描かれ
ます。
まさに怪物と呼ぶにふさわしい人物ですが、今の読売グループ総帥の言動などを見るにつけ、負
の遺産の大きさ、企業トップの品位、品格という問題を考えさせられます。

企業トップものでもう一冊、「カリスマ―中内功とダイエーの「戦後」」(新潮文庫 上・下)
を紹介します。

手に入れたものはどんなことがあっても離さない、というすさまじい執念と、目的のためにはあ
りとあらゆる手段を厭わない、という生き様が描かれます。飛行機の中で出されるコーヒーにつ
いてくるプラスチックのスプーンまでも持って帰る吝嗇ぶり。
中内に心酔し、飛行機の客室乗務員を片っ端から口説きまくって、ダイエーに入社させるのを生
きがいにしている秘書役などの魑魅魍魎。優秀な人材が自分の地位を脅かすようになると、迷わ
ず切って捨てる非情さ。
最後の最後まで経営者としての地位に執着し、晩節を汚したのはご存知のとおり。
病院で亡くなった時も、遺体を安置する家はなく、待っていたのは、火葬場に直行という厳しい
現実でした。そして、筆者の予見どおり、ダイエーグループは事実上崩壊しました。
(次回に続きます)

<ミニコーナー>
「本と街の案内所」( http://go-jimbou.info/annaijo/ )です。時間があるときなど、是非お立ち
寄り下さい。
 

取り急ぎ紹介したい鉄道本

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 7月11日(土)09時05分11秒
  「製造現場ってのは、いろんなことがあるところでね〜」とS谷さん。
「ある時、工場の変電設備に落雷があって、工場内の電気が止まっちゃったのよ。化学
反応釜の冷却ができなくなって、爆発寸前と言う事態。必死のバケツリレーで、釜を冷
やして、なんとか事なきを得たんだけどね。後始末も含めて、大変だったよ。」
「事故なんてないに越したことはないですけど、それを乗り切ることで、一体感が生まれ
るってこともありますよね」「確かに!」
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
取り急ぎ紹介しなければならない本が出ました。
NHK教育テレビのテキストで、7月で放送が終わる、という事情からです。
そのテキストは、「知る楽(しるらく)」シリーズの「鉄道から見える日本」(原 武史)。

原の意図は、鉄道を通して、日本の文学、社会、文化などのありようを探っていこうとい
うもの。細部にこだわり、仲間内だけで通じる専門語を使うことを楽しむ排他的、オタク
的鉄道マニアの世界とは、全く違う興味深い世界を見せてくれます。

鉄道紀行文学の3巨人として、原があげるのが、内田百けん、阿川弘之、宮脇俊三。
「三人に共通するのは、「鉄道好き」を自認していたことである。しかし、彼らには、そん
な趣味に入れこむ自分を「あほらしい」と相対化する眼、あるいは諧謔する精神があっ
た。、、、」(同書から)
私自身、阿川、宮脇の鉄道エッセイに数多く接してきただけに、全く、同感で、腑に落ち
る。

阿川の「南蛮阿呆列車」(以前に紹介したことがあります)における阿川と北杜夫の会
話が紹介されている。
「・・・・・そろそろ83列車がすれちがうころだと思うんですがね」
「ああそうですか」
「しゃべっている間にすれちがってしまったかな」
「失礼ですが」とまんぼうが言った。「僕は汽車がすれちがってもすれちがわなくても、大
したことは無いような気がするですがなあ」

「西の阪急、東の東急」、「私鉄沿線に現れた住宅」では、東西私鉄の経営風土、経営
戦略の違いや鉄道が単なる輸送機関を超えて、沿線の文化、社会に与えた影響等
が、実証的、具体的に語られる。
関西出身の私にとっては、とりわけ興味を大いにそそられる内容となっています。

そして、なんといってもユニークなのは、1968年の「新宿騒乱事件」を取り上げている
こと。鉄道に「事故」はつきもの(もちろん、あっては困りますが)だが、駅そのものが「事
件」に巻き込まれ、舞台となったのは珍しい。
団塊世代のオジさんにとっては、懐かしく、ほろ苦く、ちょっと血が騒ぐ思い出かも知れ
ません。

「鉄道ひとつばなし」、「鉄道ひとつばなし2」(ともに原武史著 講談社現代新書)も名
著。より深く「学習」を進めたい方は是非。

<ミニコーナー>
「奇想の王国  だまし絵展」(Bunkamura ザ・ミュージアム 8月16日(日)まで
http://www.bunkamura.co.jp/museum/ )が開催中です。
本物と見まごうばかりの超細密画、エッシャー、マグリットなどの不思議でシュールな世
界に浸れます。図は、コルネリス・ヘイスプレヒツの「食器棚」(同HPから)
 

え〜い、一口紹介だ!

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 7月 4日(土)09時35分0秒
  最近、お店では「フォーク」がマイブーム。団塊世代のオジさんが若い頃、ロックよりも身近な
存在として周りに「あった」のが「フォーク・ソング」。懐かしさと、ほろ苦さと、若気の至り
がミックスしたような気分を噛みしめながら、聞き惚れています。
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。

                  
相変わらず、買い込む量が、読む量を大幅に上回って、課題図書が溜まる一方です。
(本が売れない、なんてどこの世界の話かと思います。)

というわけで、最近読んで面白かった数冊を、まとめて一口紹介することにします。

<アンティキテラ 古代ギリシャのコンピュータ>(ジョー・マーチャント 文芸春秋)
1901年、ギリシャのアンティキテラ島の沖の沈没船から、ブロンズの奇妙な機械が引き上げ
られます。

100年以上にもわたる研究の結果、それは、2000年以上も前に作られたもので、何十とい
う歯車を複雑に組み合わせて、太陽、月、星など天体の運行を予測する「コンピュータ」らし
い、というのが現在では定説になっています。当時、既に天文に関する正確な知識を持っていた
ことに驚く一方、例えば、歯の数が223(素数)の歯車を作るという技術力の高さにもため息
が出るばかりです。
仕組みの解明を巡る先陣争い、功名争いなど人間くさいエピソードもたっぷりで楽しめます。

<打ちのめされるようなすごい本>(米原万里 文春文庫)
ロシア語通訳というより、エッセイストとしての活躍が目覚しかった氏が亡くなる直前までの
10年分の書評集です。速読が特技だそうで、一日に7冊くらいは読んでいたらしい。

しかも、対象はというと、新旧ロシア、イスラムとキリスト教、アメリカの世界戦略など、グ
ローバル、広範かつヘビーなものばかり。ちょっと気になる本に付箋をつけていたら、付箋だら
けになりました。
癌の告知を受けてから、癌に関する本を徹底的に渉猟して、病に立ち向かう雄雄しい姿には思わ
ず粛然としてしまいました。合掌。

<イチローの流儀>(小西慶三 新潮文庫)
数多い「イチロー本」のひとつですが、著者は、共同通信の記者で、イチローの番記者的な存
在。超人的な技術、精神力など語り尽くされた感がありますが、知られざるエピソードとして、
イチローの用意周到さに触れた部分が興味深い。

オリックスに入団して数年の頃、既に将来のメジャー入りに備えて準備をしていたというのだ。
広いアメリカでの移動には、時差が付きまとう。また、試合が延びたりなど、いろんな状況で一
睡もせず、試合に臨むケースが想定されます。
そのための準備として、(ペナントレース中は無理ですから)オープン戦の前日、わざと一睡も
せず、試合に臨むというシュミレーションをやっていた、というのです。
その経験と自信が、メジャーでも生かされて、結果を出せた、というのですが、、、、
とにかくすごい選手です。

<ミニコーナー>
引き上げられたアンティキテラの歯車(左)と想像復元図(右)です。
 

怖い美人画

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 6月27日(土)09時05分1秒
  先週の土曜日、マスターと一緒に「本と街の案内所」(http://go-jimbou.info/annaijo/
)で、ボランティアデビューをしました。何回か下見してきた知識と、パソコンの検
索ツールを使って本や街の案内するのは私的には楽しい経験でした。案内した書店で、
探していた本が見つかった、とお礼に来られたお客さんがあって、疲れが吹っ飛びま
した。月1程度、自然体で続けていこうと思います。
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
下の絵をご覧ください。どうです?素敵な絵でしょう?何かを訴えかけるような悲し
い眼差しと高貴な顔立ちが観るものを引き付けて止みません。(愛妻には内緒ですが、
私が一番好きな美人画)

彼女の名は、「ベアトリーチェ・チェンチ」。16世紀のイタリア貴族の娘です。
以前にも紹介した「怖い絵」シリーズの第3弾(中野京子 朝日出版社)が最近出た
のですが、その中で、この肖像画(伝レーニ作)が取り上げられています。

この絵の背景にある怖い話とは、、、、、、、、

伝えられるところでは、彼女の父フランチェスカは、暴力的かつ不道徳な男で、妻と
息子たちを虐待したばかりでなく、チェンチにも性的虐待を繰り返していたという。
連日の如く繰り返される虐待に耐えかねた家族は、当局に訴えるのだが、相手にされ
ず、遂に父親殺しを計画します。

麻薬を盛ったが殺すに至らず、バルコニーから突き落とされて、父親は死ぬ。
警察の厳しい追及、拷問により、チェンチを含めた家族が犯人とされ、死刑が宣告さ
れます。
事情を知ったローマの人々は、裁判所の決定に抗議、助命を嘆願するのですが、時の
ローマ教皇クレメンス8世は全く耳を貸さず、刑は執行されます。斬首という酷い刑
にチェンチは従容として従います。そして、この絵は、処刑の前日の彼女を描いたも
のだとされています。

以上が概ね定説とされている事件の経過です。
当時でも大事件であったはずですが、その事件が今でも伝えられ、定説として定着す
る上で大きな影響を与えたのが、かのスタンダールが発表した「チェンチ一族」とい
う作品。
彼がイタリアを旅行した際、肖像画に触発され、また、チェンチの処刑のわずか3日
後に書かれたとされる市民の日記(彼自身が発見したとされていますが、信憑性につ
いては、議論があります)が小説家魂を大いに刺激したらしい。

なお、父親の実像についても、種々議論があり、まして、真犯人を巡っては、依然と
して謎が残されています。事件により最大の利益を得たものが犯人だとすれば、チェ
ンチ家の滅亡により財産を懐に入れることとなった教皇の関与を疑う声は今でも強い
のです

3匹目のどじょう本ですが、ボッチチェリの「ビーナスの誕生」なども取り上げられ
ていて、なかなか楽しませ(怖がらせ)てくれます。
 

マスターへ(私信)

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 6月20日(土)19時35分26秒
  今日はお疲れさまでした。
この調子なら続けられそうです。
Javaもなかなか楽しいですよ。
 

ゼロの妖気

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 6月20日(土)09時05分4秒
  マスターお奨めの「60歳のラブレター」を愛妻と観てきました。
3組の夫婦が登場するが、熟年離婚した夫婦のエピソードが興味を引いた。ひたすら耐えてきた
妻(原田美枝子が好演)は、呪縛から解き放たれたようにどんどん自立への道を歩んでいく。
一方、男の方は、かっこよく始めたつもりの愛人との共同事業もうまくいかず、落ち込むばか
り。いろんな経過があって、最後はハッピーエンドで終わる。このあたりシナリオの甘さも目に
付くが、「妻は俺が養ってやっている」、「俺がいなければ何もできない」などと思い上がって
いる世の亭主ども必見の映画かも。
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
店頭で、「異端の数 ゼロ」(チャールズ・サイフェ 林大訳 早川NF文庫)が眼に留まった。
副題には「数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念」とある。
「異端」といい、「危険」といい、この本が発する妖気のようなものにほろほろと誘われて読ん
でみると、止まらない。

ピタゴラスを中心とするギリシャ数学の世界は、そもそも幾何学的志向が強く、その必要性が薄
いこともあったが、ゼロという概念は、非常に都合の悪い存在であった。
「ある数にその数自体を足すと、違う数に変わる法則(1+1=2のように)」(アルキメデス
の公理)というのがあるが、ゼロはいくつ足してもゼロであり、この公理に反する。ゼロがから
む割り算が厄介なこともご存知の通り。(本書には、ゼロの割り算を利用(悪用?)して、「ウ
ィンストン・チャーチルが人参である」ことの証明が載っています。)

全ての事象は、整数と整数の比率(ratio)で表現されることが基本であり、合理的(rational)
とするギリシャ数学では、正方形の対角線の長さが、無理数であることが、ピタゴラス学派の最
大の秘密とされてきました。(その一方で、図形的に一番美しいとされる「黄金分割比」が無理
数というのも皮肉ですが、、、、、、、)

計算のしやすさ、記数の便利さなどというのを犠牲にしてまで、数学的な統一性、美しさにこだ
わり、ゼロという概念を拒絶したのがギリシャ数学の特質であったわけです。

それだけなら、学問上、実務上のテクニカルな問題とも言えますが、アリストテレスに至って、
「ゼロ」(無)と、それと裏腹な関係にある「無限」と言う概念を拒絶することは、のちのキリ
スト教的世界観を理論面で支え、2000年にわたり、ヨーロッパを支配することになります。
「ゼロ」と「無限」の概念がなぜキリスト教とつながるのか、というと、、、、、、、

アリストテレスの宇宙観によれば、宇宙の中心は、地球であり、天体として静止している。その
地球の周りを、惑星をその内に含む天球(水晶球のようなもの)がいくつか運動しているという
のだ。一番外側の天球の「向こう側」などというものはなく、最後の層で宇宙は突然終わる。宇
宙の大きさは有限であり、物質に満ちている。「無」も「無限」もそこにはない。

で、天球はそれぞれの位置で自転しているとされるのだが、その運動の原因は、その外側の天球
でしかありえない。(地球は静止しているので)そして、一番外側の天球を動かす力(第一動
者)こそ、「神」にほかならない、というのがアリストテレスの主張であり、キリスト教世界観
と実にうまく適合し、長年、支えていくことになるわけです。

かくして、17世紀、ニュートンによって、微分、積分の手法が確立するまで「ゼロ」と「無限
」の概念はヨーロッパでは、タブーであり続けたのです。

一方、インドを中心とする東アジアでは、仏教の「色即是空」、「空即是色」及び諸宗教におけ
る「輪廻」などという概念に代表されるように、「無」とか「永遠」(時間における「無限」)
と言う概念は、かなり普遍的なものであったといえます。
「ゼロ」(無)がインドで「発見」されたというよりは、「ゼロ」という概念を「受け入れる」
下地があって、記号化、記数法として確立した、ということではないでしょうか。

現に、「アラビア数字」との呼び名に象徴されるように、「ゼロ」を含めた記数法と概念は、イ
スラム世界から広がっていきます。
そして、近世ヨーロッパも、キリスト教世界も「使わざるを得ない」状況に追い込まれていくこ
とになるわけです。

「ゼロ」(無)の背景に、これほどの文化的、哲学的、宗教的世界が広がっているとは、、、、
まさに、眼からウロコ、の読書体験でした。
<ミニコーナー>
原田美枝子さんです。最初はおどおどしていたものの、どんどん逞しくなっていく妻の役を見事
に演じきって、実に魅力的でした。
写真は、同映画の公式HP(http://www.roku-love.com/)から
 

テレビの行き着く先

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 6月13日(土)10時08分32秒
  偶々、兵役制度が話題になりました。国民皆兵とまではいかなくても、一定期間兵役
とか訓練を義務付けている国は多い。
「スウェーデンもそういう国なんだけど、国際的なスポーツ選手とか、優秀な学生、
研究者などは、その義務が免除される制度があるの。だけど、その見返りとして、課
せられることがあるのね。」とマスター。はて?
「スポーツ選手の場合だと、引退後でいいんだけど、一定期間、自分の得意分野を子
供たちに無償で指導したり、教えたりしなきゃならないのよ。」
「自分の得意分野で、次代の育成という世の中への貢献が出来るわけだから、いい制
度ですねぇ〜。」
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
さて、今週は、「テレビの青春」(今野勉 NTT出版)をご紹介します。

「題名から内容を誤解してはならない。「三丁目の夕日」のような感傷は断片すらない。
あるのはすぐれて今日的な問題関心である。これからのテレビメディアはどうあるべ
きか?東京放送の草創期の社員で、のちに日本初のテレビ番組制作会社「テレビマン
ユニオン」を創設した著者がこの問題を解こうとする。」(09年4月20日付 読売
新聞掲載の井上寿一氏(日本近現代史家)の書評の冒頭引用)

これ以上の紹介は蛇足とも思うのですが、そうもいきませんので、感想やらをまじえ
て、書いてみることにします。

1959年に著者が入社した放送局が「ラジオ東京」(現TBS、当事、テレビ部門
は、一般に「ラジオ東京テレビ」と呼ばれていた。)というのが何より象徴的。当時、
電波メディアの主役は、あくまで「ラジオ」であった。また、映像メディアの主役は、
「映画」という時代。
現に、著者の同期入社の中には、実相寺昭雄(のちに映画の世界に転身)をはじめ、
映画志向の青年が多く、滑り止めで入った鬱屈感を抱えながらも、テレビドラマの世
界を切り拓いていきます。
著者自身が「修羅場」と呼ぶ厳しい現場、数々の失敗と試行錯誤の日々―細部のエピ
ソードでそれらを描き出す今野の筆力はさすがです。

「電気紙芝居」などと揶揄されながらも、彼らの努力によって映画、ラジオを凌駕し、
長年、日本の娯楽、報道、広告宣伝の王者に君臨してきたテレビというメディア。

それにしても、、、、、、と思うのです。
「最近のテレビはつまらない」との声をよく耳にします。ネットの影響と不況による
スポンサー離れが制作費の削減を招き、低コストで低俗な番組の横行が視聴者離れを
一段と加速させる、そしてそれがスポンサー離れを一層助長する、と言う「構造的」
な負のスパイラルに入ってしまったようです。

私自身が、完全にテレビ離れをしてしまっていて、ネットな日々を送っています。
情報収集、発信にこれほど便利なツールはない、と思っているわけですが、かといっ
て、ネット万能の時代がず〜っと続くのかな、という漠然とした疑問も頭をよぎりま
す。
かつて、映画がテレビに駆逐され、今やネットがテレビに取って替わりつつあるのは
事実だとして、さて、ネットを超える新たなツールが、将来、現れるのか、現れない
のか?

とりあえず、時代の流れに溺れない程度に、身を任せていこうと思います。
<ミニコーナー>
ワシントンにある「ベトナム戦争戦没者慰霊碑」(Vietnam Veterans Memorial)です。
全長75m、高さ3mの花崗岩の壁には、58、249名(2005年現在)の戦没
兵士の名前が、一面に刻まれていて、宗教色はなく、年間300万人の人々が訪れま
す。
イラク戦争での米軍兵士「だけでの」死者が4000名を超え、アフガン紛争も出口
が見えません。新たな慰霊碑が必要とならなければいいのですが、、、、、
(Wikipediaの記事等を参考にしました。)
 

ヘリの蘊蓄を傾ける

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 6月 6日(土)09時20分3秒
  「どうしたの?」久しぶりにお店に顔を出したアキちゃんにマスターからの一言。
「それはないでしょっ。時間が出来たから飲みに来たのっ。」「ごめん、ごめん」
やっぱり、時々お店には顔を出したほうがいいみたいです。
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
竹とんぼからの連想でしょうか、ヘリコプターというのは、一見、飛行の原理や仕組みが、飛行
機に比べると簡単なようにみえる。
しかも、離着陸に場所を取らず、空中での静止(ホバリング)が出来、風にも強いなど、飛行機
と比べ、格段に優れた特性を持っている。現に、高所作業、遭難救助などはヘリの独壇場といっ
ていい。

だが、「機械仕掛けの神」(ジェイムズ・R・チャイルズ 早川書房)によれば、「本当に使え
るヘリコプターが登場したのは、1940年代」だというから、これは驚き。
「使えるヘリ」の開発に取り憑かれた“ヘリコプトリアン”と呼ばれる人々の苦闘は、そのま
ま、奇行、奇癖、奇想天外のアイディアのオンパレードといっていい。豊富な実例、図版が登場
する前半は、それだけで十分楽しめる。

で、ヘリコプター実用化の大きなきっかけとなったのが、回転翼(メインローター)のピッチ
(水平に対する角度)を任意の位置で変えられるという巧妙な仕組み。ロシアの発明家シコルス
キーの発明にかかるものだが、例えば、ローターが機体の後ろに来た時だけ、ピッチを大きくす
ると、後ろを持ち上げる揚力が働いて、機体はやや前のめりに前進させることができる。このま
まではいずれ地上に激突するので、ローターの回転数などで高度を保つことで機体を水平に前進
させるという微妙な操作が必要となるわけですが、、、、、、、、お分かりいただけましたか?

ちなみに、セスナの免許取得は、最短で100数十時間に対して、ヘリは200時間以上という
から、いかにヘリの操縦が難しいかがわかる。刻々変わる機体の動きを、早め早めに読み取っ
て、ミリ単位の操作でコントロールしていく、、とても私には出来ません。(あたりまえです
が、、、、)

さて、後半では、戦争がおおきな契機となって、実用化した後のヘリを巡る歴史的エピソードが
中心になります。ベトナムからの米軍の撤退の際に活躍したヘリの様子は、今でもありありと記
憶に残っています。

というわけで、ヘリコプターの歴史、文化からテクノロジーまで説き起こした中身の濃い本のご
紹介でした。
<ミニコーナー>
ついでに、このコーナーもヘリの話題で攻めようと思います。
ロビンソン社製の人気小型ヘリR22 Betaの計器パネルです。
コンパクトで機能的なレイアウトがあまりにも素晴らしいので、マスターがデスクトップに貼り
付けているらしい。マイナーな話題で、興味のない人には、「恐縮ですっ!」
 

世界文学を「食」す

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 5月30日(土)08時43分53秒
  「“ゴルゴ13”も何歳くらいになるのかな~」とマンガ大好きのiさん。
「シリーズが150巻くらいまで出てて、毎年4冊づつ刊行されてますよね。30歳でスナイ
パー業を始めたとして、70歳近く。年金生活でもしてんじゃないですか」
「おいおい、夢をぶち壊すなよっ」自分で提起した話題で、墓穴を掘ったiさんです。
以上、今週も、グレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
名著の呼び声が高かった「世界文学「食」紀行」(篠田一士 講談社文芸文庫)が20数年ぶり
に復刊されました。

日本文学で描かれる「食」は、総じて淡白。登場人物とか社会背景にリアリティーを与えるため
の、まあ、刺身のつま、みたいな扱いが多いような気がします。

一方、世界文学における「食」の世界は、さすがに広大無辺といっていいのでしょうか、登場人
物の性格とか、社会背景を超えて、個人の思想性、時代精神までをも表現する手段として、実に
効果的に使われることが多い。(以下、同書から一部引用)

「百年の孤独」(ガルシア・マルケス)にすさまじい大食い大会のエピソードが登場する。
大会は4日間にわたり、男女各1名が戦う。
1日目では、タピオカ、ヤマノイモ、焼きバナナなどどっさり出た後で、子牛一頭を平らげるの
だが、勝負は付かず。

4時間ほど眠ったあとは、50個分のオレンジジュースと8リットルのコーヒー、30個の生卵
を飲み、2頭の豚と4箱のシャンペンなどを片付ける。
それだけではない、2羽の七面鳥を焼いたのを一羽ずつ召し上がれ、といわれたとき、この大食
い大会のドラマはクライマックスを迎える、というのだが、、、、、、、
う~ん、虚構といえども、ラテンの世界は、濃厚にして濃密だ。

ギュンター・グラスの「ブリキの太鼓」では、「玉ねぎ地下酒場(ケラー)」が登場する。
ケラーといいながら、ここでは酒は出ない。客の前には、まな板と包丁が並べられ、生の玉ねぎ
が配られる。お客は、好きなように玉ねぎを切り刻むのがご馳走というまことに阿呆らしい話。

「、、、、、、、、その汁がなにを果たしてくれたのか?それは、この世界と世界の悲しみが
果たさなかったことを果たした。すなわち、人間のつぶらな涙を誘いだしたのだ。このとき、一
同は泣いた。ついに、またもや泣いた。、、、、、、、、」(高木研一訳 同書から)
ドイツの悲惨な時代精神を表現するのに、こんな手があったのかと感心するしかありません。

見開き2ページづつに収まった144編のエピソードは、上質にして、深い味わい。すいすいと
飲め(読め)ました。
<ミニコーナー>
テレビ離れしている私が、最近良く見る番組に、「夢の扉~NEXT DOOR~」というのがあります
(TBS系 日曜午後6時半~7時)。
プロがやっても50時間はかかる炭焼きを、5時間で出来る炭焼き窯の開発に取り組む工業高校
の先生と生徒など、世の中に役立つ技術開発を目指す様々な人々の苦闘を図なども入れて丁寧に
描いていきます。
当然の如く立ちはだかる壁をどう乗り越えるか、、、、、、こちらもついつい身を乗り出して、
ああだろう、こうだろうと頭を巡らすのが楽しい。良心的で、知的興奮を呼ぶ良番組です。
番組HPは、http://www.tbs.co.jp/yumetobi/
 

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