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ゼロの妖気

 投稿者:作家モト  投稿日:2009年 6月20日(土)09時05分4秒
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  マスターお奨めの「60歳のラブレター」を愛妻と観てきました。
3組の夫婦が登場するが、熟年離婚した夫婦のエピソードが興味を引いた。ひたすら耐えてきた
妻(原田美枝子が好演)は、呪縛から解き放たれたようにどんどん自立への道を歩んでいく。
一方、男の方は、かっこよく始めたつもりの愛人との共同事業もうまくいかず、落ち込むばか
り。いろんな経過があって、最後はハッピーエンドで終わる。このあたりシナリオの甘さも目に
付くが、「妻は俺が養ってやっている」、「俺がいなければ何もできない」などと思い上がって
いる世の亭主ども必見の映画かも。
以上、今週もグレローニュースは、USO800Khzでお送りしました。
                  
店頭で、「異端の数 ゼロ」(チャールズ・サイフェ 林大訳 早川NF文庫)が眼に留まった。
副題には「数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念」とある。
「異端」といい、「危険」といい、この本が発する妖気のようなものにほろほろと誘われて読ん
でみると、止まらない。

ピタゴラスを中心とするギリシャ数学の世界は、そもそも幾何学的志向が強く、その必要性が薄
いこともあったが、ゼロという概念は、非常に都合の悪い存在であった。
「ある数にその数自体を足すと、違う数に変わる法則(1+1=2のように)」(アルキメデス
の公理)というのがあるが、ゼロはいくつ足してもゼロであり、この公理に反する。ゼロがから
む割り算が厄介なこともご存知の通り。(本書には、ゼロの割り算を利用(悪用?)して、「ウ
ィンストン・チャーチルが人参である」ことの証明が載っています。)

全ての事象は、整数と整数の比率(ratio)で表現されることが基本であり、合理的(rational)
とするギリシャ数学では、正方形の対角線の長さが、無理数であることが、ピタゴラス学派の最
大の秘密とされてきました。(その一方で、図形的に一番美しいとされる「黄金分割比」が無理
数というのも皮肉ですが、、、、、、、)

計算のしやすさ、記数の便利さなどというのを犠牲にしてまで、数学的な統一性、美しさにこだ
わり、ゼロという概念を拒絶したのがギリシャ数学の特質であったわけです。

それだけなら、学問上、実務上のテクニカルな問題とも言えますが、アリストテレスに至って、
「ゼロ」(無)と、それと裏腹な関係にある「無限」と言う概念を拒絶することは、のちのキリ
スト教的世界観を理論面で支え、2000年にわたり、ヨーロッパを支配することになります。
「ゼロ」と「無限」の概念がなぜキリスト教とつながるのか、というと、、、、、、、

アリストテレスの宇宙観によれば、宇宙の中心は、地球であり、天体として静止している。その
地球の周りを、惑星をその内に含む天球(水晶球のようなもの)がいくつか運動しているという
のだ。一番外側の天球の「向こう側」などというものはなく、最後の層で宇宙は突然終わる。宇
宙の大きさは有限であり、物質に満ちている。「無」も「無限」もそこにはない。

で、天球はそれぞれの位置で自転しているとされるのだが、その運動の原因は、その外側の天球
でしかありえない。(地球は静止しているので)そして、一番外側の天球を動かす力(第一動
者)こそ、「神」にほかならない、というのがアリストテレスの主張であり、キリスト教世界観
と実にうまく適合し、長年、支えていくことになるわけです。

かくして、17世紀、ニュートンによって、微分、積分の手法が確立するまで「ゼロ」と「無限
」の概念はヨーロッパでは、タブーであり続けたのです。

一方、インドを中心とする東アジアでは、仏教の「色即是空」、「空即是色」及び諸宗教におけ
る「輪廻」などという概念に代表されるように、「無」とか「永遠」(時間における「無限」)
と言う概念は、かなり普遍的なものであったといえます。
「ゼロ」(無)がインドで「発見」されたというよりは、「ゼロ」という概念を「受け入れる」
下地があって、記号化、記数法として確立した、ということではないでしょうか。

現に、「アラビア数字」との呼び名に象徴されるように、「ゼロ」を含めた記数法と概念は、イ
スラム世界から広がっていきます。
そして、近世ヨーロッパも、キリスト教世界も「使わざるを得ない」状況に追い込まれていくこ
とになるわけです。

「ゼロ」(無)の背景に、これほどの文化的、哲学的、宗教的世界が広がっているとは、、、、
まさに、眼からウロコ、の読書体験でした。
<ミニコーナー>
原田美枝子さんです。最初はおどおどしていたものの、どんどん逞しくなっていく妻の役を見事
に演じきって、実に魅力的でした。
写真は、同映画の公式HP(http://www.roku-love.com/)から
 
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